蔵元便り 柚野の里から

2006年10月

夏の成果

 真っ赤な夕焼けがいわし雲を朱色に染め、急に日が落ちるのが早くなった秋の夕暮れを、燃えるように彩っていました。
急に肌寒くなってきましたが、いかがお過ごしですか?
先日、9月8日に当蔵の製造部・根本が、嬉しそうに沼津から帰ってきました。
その日は、沼津工業技術センターにて「初呑切」が行なわれたのです。
この行事は、名古屋国税局鑑定官室長をはじめとする鑑定官の先生方に、一夏越したタンクのお酒をきき酒して品質チェックをしていただく大切な行事なのですが、富士錦の酒は、「全体にソフトで良く形が整っている。特に、純米吟醸はすばらしい。」との講評をいただきましたと、声を弾ませて事務所に戻ってきたのです。

その報告を聞いて気持ちがぽっと明るくなったと同時に、製造部のその晴れやかな顔に、一冬かけて酒を醸し、春・夏ときっちりと温度管理をして、地道に努力してきた熱意を、改めて思い返しました。
日本酒にとって雑菌の多い夏は、苦手な季節です。
しっかりと見守ってやらないと、熟成が進みすぎたり、老ねてしまったり・・・。
しかし、上手に寝かせた日本酒は、秋には時間の蓄積分の熟度が加わって、独特の丸みを帯びた冴え冴えとした深みのある味になります。

「酒は生きもの」といわれますが、この暑い夏を快適に過ごしたかどうかが、この秋口の味わいにはっきりと現れるのです。 そして、一夏、どんなに酒の温度管理に気を配っていても、封印されたタンクの呑み口を切るまでは、酒の熟成具合はわかりません。
酒には、神秘が宿っているのですから・・・。

今年は、この「初呑切」にて非常に評価の高かった純米タンク102号より、適熟のころあいを見届けて、もっともおいしいタイミングで詰口した「純米ひやおろし」を原酒にて、秋のパッケージに包んでお届けします。
秋の訪れと共に旬の味をお楽しみください。