「一年前のお酒が出てきたんだけど、この酒飲んでも大丈夫ですか？」このような質問をお客様からいただくことが、時々あります。そんなときは「アルコール飲料ですので、腐ることはありません。ですので、一年前のお酒でもお飲みいただけます。」と説明して、 まず安心していただきます。

多分、お電話を頂いたお客様は普段あまりお酒を口にする習慣がないので心配しておられるのだろう、と感じるからです。その後に、保存状態を伺ったりお酒に色がついていないかなど、いろんな話を伺いながら話していくと、大体納得されて、「そう、じゃあ大丈夫なんですね。」という感じで落ち着きます。
先日も、電話がなりました。「実は富士錦さんのお酒を」というくだりから、浅はかながら前述のような質問かなと思い伺っていたのですが、全く違いました。
「あらばしりってお酒の１０年古酒を友人のところで飲んだんですけど、それが感激するほどおいしくて、なかなか蔵元さんも自分の所のこんな古酒を飲んだことないだろうから、是非きき酒して欲しくて電話しました。」と、翌日本当にお持ちしてくださったのです。
青森に住むお友達は大の日本酒好きということで、十年前に遊びに行かれた時に、弊社のあらばしりを２本、お土産としてお持ちになられたそうです。そのうち１升はすぐお飲みになり、もう一本は今度再会したときに飲もうと、冷蔵庫を最強にして青森のお友達が保存されていたのだそうです。
再会にちょうど十年かかったので、奇しくも１０年古酒。このお話だけでもなんだか、すごくワクワクしてきます。
そして利き酒させていただいたのですが、色もほとんど変わっておらず、香りもあのフルーティーな甘い香りが健在、そしてびっくりしたのは、時間と共に洗練されたような軽やかな喉ごしとその味わいです。
舌の上を滑るように転がって後味さわやか。なんのストレスもかからない気持ちの良い状態で過ごしてきた酒の力と時の力のすごさを、再認識させていただきました。ありがとうございました。

人が醸し、時の力によって、美味しさを増す日本酒もそんな酒のひとつです。