蔵元便り 柚野の里から

2014年02月

時々の初心

「一年のはじめに」をテーマにした読み物をよんでいたら、びっくりする一説に出会いました。
…私たち日本人は、そもそもリセット民族なのかもしれない…どういうことかというと、たとえば、昨年は出雲大社の遷宮と伊勢神宮の式年遷宮が重なった節目の年でしたが、遷宮のように「古くなったものは新しく作り変えた方がいい」という考え方が日本古来からの思想にある、こう指摘する安田登氏のことばです。
氏は能楽師として、世阿弥の後輩にあたるのですが、「初心忘るべからず」の初心について、次のように述べているそうです。

「初心の初の字は、衣へんに刀で、まっさらな布地にはじめてはさみを入れることを言う。ならば、“時々の初心”は、人生の各ステージにおいて、自分の身にはさみを入れていって、過去のしがらみを切り、新たな生を行き直すことを言い、これが芸ならば、新たな芸境に入るために、自身をばっさり切る、その大切さを言う」
リセットと日本人を結びつけたところがすごいところですが、この一説を読んで日本人の聡明な潔さを、改めて感じました。
酒造りは、一年の内約半年間で行われるので、残りの半年は日本酒造りから離れます。そのおかげで、造り手は自然にリセットし、新たな気持ちで毎年酒造りに入っていきます。
また杜氏は、新聞などのインタビューで聞かれるたびに、「酒造りは、毎年が一年生です。」と話します。これが、私たち酒造りに携わるものの「初心」にあたる気がします。
又これは、不思議と歴代のどの杜氏も皆共通して使っています。「毎年、米質が違うし、気候も違う。だから、酒造りも毎年違う。だから、毎年が一年生。本当なのですよ…。」と。毎年、ステージが違うのです。

その上、半年間家族とも離れ蔵に住む蔵人達が、世のしがらみからも離れて無心に酒を造り続け、そして、次の半年間は酒造りからは離れリセットする。まさに「日本人の酒」だ、と改めて感じた始まりの月でした。