蔵元便り 柚野の里から

2014年10月

王道とは

「ご無沙汰してました、今年もよろしくお願いします。」と、柔和な表情で玄関を入ってきたのは、小田島杜氏ら四名。
今年もいよいよ日本酒造りが始まります。四月に岩手に帰り、きっと杜氏達もあっという間の半年間だったでしょう。言葉を交わせば、まるで昨日別れたように、半年間のブランクも吹き飛びます。
明るく熱意ある性分の小田島杜氏がやってくると、ひっそりとした蔵の中でさえ、熱気を帯びてくるから不思議です。

そして今年は蔵人の入蔵を迎えても、まだ、一部酒米「誉富士」の圃場が、稲刈りの日を待っています。九月の日照不足と十月の毎週きた大型台風の影響で、収穫のタイミングが、後ろにずれているからです。
また18号と19号の影響は特に西日本の米農家に大きく、台風前に倒伏しないよう早めに刈り取られる酒造好適米が多かったようです。
どんな米が入荷してくるか、毎年その米質は違うので、酒造りも毎年がまるで一年生です。
ところで、今「うまい日本酒はどこにある?」増田昌文著をお客様に教えていただいて読んでいます。
「うまい日本酒」に全霊を傾ける人々の話が詰まっている、同じ業界にいる者として勇気が湧いてくる一冊です。その中で、インターネット証券会社の松井証券の松井道夫さんの話が印象的でした。
「大企業に価値があるなんて完全に過去の話なんです。企業が顧客を囲い込み、自社に有利な情報だけを流して商品を売りつけ利益を得られた時代は終わりました。これからは、顧客がマーケットの中心です。顧客は組織の志の有無を厳しく選択してきます。組織にとっての不利なことが、そのまま顧客の有利に繋がる。不利を突き詰め、顧客サービスに昇華できない会社は取り残されていく。」と明言しています。

これは、そのまま日本酒業界にも 当てはまります。酒造りとは何か?消費者が求めているものは何か?
「うまい酒を造る」、酒屋の王道はこの一言に尽きるのではないでしょうか…。今年も、そんな私たちのメッセージを込めた日本酒造りが始まります。どうぞ、お楽しみに…。