蔵元便り 柚野の里から

2002年11月

続ければ成功

 花の盛りに、「丸坊主」という言葉がぴったりなくらい剪定された「キンモクセイ」の木が、けなげにも頑張って、あの上品な香りを漂わせながら、秋の深まりを教えてくれる今日この頃です。
先日、NHKのある番組で、中国ゴビ砂漠にポプラの木を植える、日本のボランティアチームの軌跡を紹介していました。
最初のポプラの苗木を植えてから確か10年、今、ゴビ砂漠では10万本のポプラが根づき、そのお陰で草が生え、花が咲き、生命の営みが不毛の地で始まっていました。
砂嵐が舞い、砂丘が延々と続いていたこれまでの光景がまるで嘘のような緑に変わり、人が住み、畑ができてとうもろこしが収穫できる大地となったこの一大プロジェクトは、見るものが「まるで夢でも見ているのでは・・・」と錯覚してしまうほどの結果を残しています。
このプロジェクトを率いているのは、今年99歳になるまさに大老でした。
途中未曾有の大洪水に遭い、やっと根づいた3万本もの苗木が、1日にして押し流されたとき、打ちひしがれた人々の心を奮い立たせたのは、この人の一言でした。
「続ければ成功、止めれば失敗。さあ、始めよう・・・」
この言葉を聞き、人々は再び動き出すことができたのでした。
「いつまでこの仕事を続けますか?」と問われた際、「これは私にはわからない。神様だけが知っている。」と答え、プロジェクトの成功には「あと百年か二百年、一日も休まなければ成功。」とおっしゃいました。
淡々と答えるその姿、そして、その内容。
志を持つ人の、壮大で力強く、加えて現実的で魅力的な哲学が、心に響きました。
伝統に培われた地酒蔵にて酒を醸す私どもにとって、プロジェクトの大老が語った「続ければ成功」という言葉は、深く共感できる言葉です。

代々手渡される「富士錦」というバトンを、次の代に渡すために、私たちは何をするべきなのか・・・
今、為すべきことをするばかりであろう・・
そんな思いを強く持った晩秋です。
もうすぐ、富士錦の今年の酒造りが始まります。