蔵元便り 柚野の里から

2005年12月

峠越え

 今年は寒さが早いですね。
11月に入ってまもなくの朝、カーテンを開けるとこの冬初めて窓が結露で曇っていてびっくりしました。 それと同時に、足下から冷たい空気が伝わってきて、冷え込む外気を肌で感じました。
冬になり、寒さがやってくると、この里で一段と綺麗になるのが、冬の星座です。
星座の名前はまったくわかりませんが、まるでこぼれ落ちてきそうにキラキラと輝く星空は、澄んだ空気の中、何度見上げても「うわぁ、すごい。」と思える綺麗さです。
もう、2回も流れ星に遭遇しました。 やっぱり自然ってすごいですね。
ところで、最近、蔵元が昔の話をしてくれるようになりました。
前向きな進取の気性でこだわりのない蔵元は、昔を話すことはほとんどありませんでした。 また、先代と共に、つらい戦争経験をしているので、やはり、語りづらい時代背景もあるのかもしれません。
よく話すのが、十歳になった時、一人で中里峠の富士宮の全貌が見渡せる丘まで行った時の話しです。 山道が急に途切れて、眼下に町並みが広がって見えたときの、一人でここまで来れたんだという達成感は、60年の時を経ても忘れられない思い出のようです。
山をひとつ越えるというのが、交通の発達していなかったその頃は、今では計り知れないくらい大変な時代だったのですね。
そして、町(=富士宮)へお酒を配達するのも、もちろん現在のように車などなく、大八車を馬に引かせてこの峠を運んだんだそうです。
当時は、瓶詰めのお酒ではなく、樽詰めのお酒が一般的で、それを町の酒販店さまへお届けしていました。

酒販店さまでは、その樽から量り売りをして、消費者の皆様にお飲みいただくというスタイルでした。
たかだか60~70年前の情景です。
蔵内では、もうすぐ新酒が誕生します。 今年のお正月は、そんな昔懐かしい樽詰めのお酒で新年を祝われてはいかがですか?