蔵元便り 柚野の里から

2016年12月

冬の情景

 蔵の裏戸を開けると、夜中降り続いたどしゃぶりの風雨は、隅々まで洗い流し雲ひとつない真っ青な空と真っ白な富士を土産にし、思わず手を合わせたくなる、そんなおごそかな冬の情景が広がっていました。この地に生きてありがたいなぁ、と感じる朝でした。
富士錦では、師走を迎え酒造りも出荷も最盛期を迎えています。毎朝早くから40度前後の暖かい麹室(こうじむろ)でひと仕事してから朝食に来る蔵人達は、汗をかき体から湯気が立ちのぼる、そんな感じで食卓を囲みます。「いただきます」のそろった挨拶のあと、賑やかに食事が始まり、あっという間に、「ごちそうさま」です。集団生活の常、早飯も仕事の内でしょうか…。そのかわり、蔵人の夕食はゆっくり皆で話をしながら楽しみます。一仕事を終えた後の一杯は、格別でしょうね。皆楽しそうです。今年は、蔵人全員が晩酌するので、本当に賑やかです。(実は、全員が飲む年は近年珍しいです)

しかし、半年間に及ぶ酒造りの最中は、苦労や迷い・悩みが多く楽しいことばかりではありません。小田島杜氏いわく、「私が渋い顔をするとみんなが渋い顔になる。でも、私が楽しくすればみんなが楽しくなる。そしてみんなが楽しく回った時じゃないと、良い酒は出来ないんですよ。陰であいつはどうだとか悪口を言ったら絶対ダメ。これは不思議なもので腕じゃあないんですよ。みんながひとつになった時は、不思議と良い酒が出来るんです。」こう話す小田島は、いつも笑顔が絶えない、そんな人間力溢れる杜氏です。
出荷の最盛期、残業続きの倉庫へ向かうとスタッフと一緒に、 夕食を終えた蔵人達が一緒に出荷の準備に参加しています。これが蔵人達の心意気です。
今年一年、ご愛飲いただき誠にありがとうございました。 どうぞ、良い年をお迎えください。来年もどうぞよろしくお願いします。