対談

対談 柚野の里から発信する田舎の可能性

2021年東京から富士宮市柚野に移住し、2024年から東京と地方を繋ぐ「森とアトリエ」の活動をはじめた森谷健久さん。私とは富士錦酒造が開催するマルシェで知り合い、面白い方だなと感じ対談をお願いしました。柚野で暮らす魅力とは何なのか。今、柚野で生活しながらできることとは何なのか。柚野、そして田舎が描く未来とは。大変興味深い話の一端をご紹介します。

清:
元々私は森谷さんの奥様のお母さんと30年来の知り合いなんです。それでこの古民家を改装してるところを見て、何が始まるんだろうと思っていたんですよ。

森谷:
富士錦酒造さんの先代と義母は昔から交流があったようで、私も移住する前から義母にすすめられて、よく一緒に富士錦を飲みました。地元の水と地元の米で造った富士錦を、地元の柚野で飲むってすごく美味しいんですよ。ある意味贅沢な、格別な時間です。

清:
それは嬉しいですね。こちらに移住をされたきっかけは何だったんですか。

森谷:
私は北海道生まれ北海道育ちで、東京には大学から。就職し、結婚し、子供も授かりましたけど、幼い頃自然の中で遊んだという原体験もあり、やはり子育ては田舎でという気持ちが強かった。そんな中、妻の実家もこちらにあるので家を建て始めたらコロナ禍に。リモートワークができる仕事が増えてきました。それで今は東京と柚野を行き来しながら、子育てはこちらでしようということになったんです。

清:
実際に柚野で暮らしてみて、柚野はどうですか。

森谷:
住んでみて感じたのは、まず人間が生活する上で基本となる空気と水がすごく美味しいということですね。加えて食べ物、野菜なんかが実に美味い。カラダに良いモノを取り入れてるなぁと実感しています。もうひとつは近所や地域の皆さんと上手くコミュニケーションがとれているということですね。朝、周りの皆さんがごく自然におはようございますと挨拶してくださる。これは東京ではなかったことです。

清:
挨拶ひとつとっても地域の皆さんが大切に続けていることで、柚野はお互いを思いやれる、人との繋がりを大事にしている、そんな地域なんです。ですから例えば移住を考えている若い人たちにとっても、柚野には「実家」のようにどこか落ち着ける、心温まる存在だと、そこに気がついて欲しいですね。

森とアトリエ 柚子里庵森谷:
私は美大出身なので、近所で美大に進学したいという高校生から勉強を見て欲しいということで、少し協力させてもらったんですけど。合格したらすごく美味しい食材を親御さんからいただきまして(笑)。お金じゃないんですね。こういうところ、すごくいいなと思うんです。それだけに今、娘たちが通う小学校が生徒数の減少という課題に直面していまして。私にできることは何だろうかと考えるようになりました。そこで東京の世田谷区にもショップがあるんですが、ここに柚野の物産や、移住に関する情報などを提供し、柚野の魅力、良さを紹介する活動をしています。人とモノの流通を促し、経済を動かしていくことも含め、関係人口を増やしていけたらと。私のできる範囲でこうした活動をやっていき、一人でも二人でも柚野に興味をもってくれれば良いなと思っているんです。

清:
そうですよね。この小学校出身の人で、今はこの地を出ている人たちには、何が不都合だったのか、何が足りなかったのか。そうしたことに着目し、問題となった理由をひとつ一つ解消していくこと。これを継続的にやっていくことで、子供たちや地元を守っていけたらなと考えています。
また我が社としても、会社帰りに上司に連れられて飲むとか、同僚と飲むとか、そういうお酒を飲むシチュエーションが変化してきている今、それでも美味しいものを届けたいという想いを胸に、例えば新しい飲み方を提案をしたり、私たちの得意技でもある「醗酵」を使った甘酒のような、カラダに良いものを味にこだわって造ったり、海外向けマーケットの開拓を図ったり。さらには大事な物事を決めるその現場には、昔から日本酒があったというようなお酒の文化・歴史、お酒のもつ魅力を広く発信していき、柚野に興味をもっていただくような活動に取り組んでいます。

森谷:
私たちができることには限りがありますが、まずはひとり一人、個々が自分にできることを丁寧にやっていくことが大事だと思っていて。最初から大きな範囲や規模でやるというよりは、自分から家族、そして地域へというような広がりの方が良いし、隣り合わせの人同士がちゃんと仲良くする、そんな世の中の方が良いと思うんです。ですから私が柚野と世田谷を繋いでいけば、いずれはそれが静岡と東京という繋がりになっていく、そんなふうに思っています。

清:
その繋がりが地球レベルになって世界平和になっていけばいいですよね。だからこそ繋がりの最初であるこの地をもっと知ってもらうことが肝心ですね。

森谷:
富士錦酒造さんが毎年やられてる「蔵開き」ってあるじゃないですか。私はあれを見てびっくりしたんですよ。田んぼの真ん中にシート敷いて、人が集まって、みんな飲んで、みんな笑って。おおっすごい!って。都会ではまず見られない光景です。
写真清さんもおっしゃっていましたけど、お酒は素晴らしいコミュニケーションツール。美味しいものって、人を本当にいい顔にするんですよ。これからも人をいい顔にするには、柚野をどういう場所にしていくかだということじゃないでしょうか。
清さん、今度ぜひ一緒に飲みましょう。

プロフィール
森谷 健久 - もりや たけひさ –

1973年北海道小樽市生まれ、札幌育ち。
武蔵野美術大学を卒業し株式会社リクルートに入社。
商品サービスのブランディング・広告宣伝プロモーションの企画制作を担当。
2014年「株式会社ブルーストラクト」設立。
2015年「OUR FAVOURITE SHOP」をオープン。
2021年富士宮市柚野に移住し、2024年東京と地方を繋ぐ「森とアトリエ」を開始。
移住定住を促進し、関係人口を増やし、子供たちに未来と故郷を残していく活動に取り組んでいる。また同年、デザインスクール「OFS式 寺小屋」も開校。
 
主な受賞歴 
ACC CMフェスティバル金賞 ギャラクシー賞
ブルノ国際グラフィックビエンナーレ など